39 なぜ治癒ではなく寛解という表現なのか?

『戻り方を知っているから、怖くない』

うつ病は、再発することがあります。そして、再発を繰り返すほど、その後の再発リスクが高くなることも知られています。では、なぜ再発するのでしょうか。そこには、偏桃体を含む脳のさまざまな領域や神経回路の働きが関係していると考えられています。

前項で、寛解した後も「アラーム」が鳴りやすい状態が残るこつについて、私自身の感覚をお話ししました。これは医学的に「偏桃体が必ず過敏なまま残る」という意味ではありません。私自身の経験を、あえて「アラーム」という言葉で表現すると、「以前よりも、アラームが鳴りやすいように感じる」ということです。ちょっとしたストレスに反応する。以前なら気にしなかったことが気になる。「あれ、大丈夫かな?」と警戒してしまう。そんな感覚です。

そして、偏桃体を含む脳の構造や働きが、これまで経験してきた環境やストレスと無関係ではないことを示す研究もあります。

例えば、幼少期のネグレクトや養育環境の影響と、偏桃体の容積との関連を調べた研究があります。特定の研究では、幼少期のネグレクト経験と右側の偏桃体容積との関連が報告されています。ただし、幼少期の逆境と偏桃体の容積との関連のついては、研究によって結果が異なることもわかっています。つまり、「強いストレスを受ければ、必ず偏桃体が大きくなる」と単純に説明できるものではありません。

脳は、これまで経験してきた環境やストレスの影響を受けながら変化していきます。私は、このことを自分の経験に重ね合わせて考えると、「アラームの設定が変わったように感じる」という表現がしっくりきます。でも、ここで悲観する必要はありません。なぜなら、前の章でお話ししたように、あなたは「戻り方をしっている」からです。

以前なら、「なんでこんなことで不安になるんだろう」「どうしてこんなに苦しくなるんだろう」と分からなかったことも、今なら、「もしかしたら、今はアラームが鳴っているのかもしれない」と気づけるかもしれない。その「気づける」ということ自体が、大きな変化です。再発を恐れるあまり、何もできなくなる必要はありません。むしろ、一度経験したからこそ、自分の変化に早く気づける。そして、必要なら早めに休む。誰かに相談する。医療機関につながる。そうやって、自分自身のナビゲーションを使っていけばいい。私は、これも「Reborn」の一部なのだと思っています。そして、これからも自分の状態に注意を向けながら歩んでいく。だからこそ、私は「治癒」ではなく「寛解」という表現でいいのだと思います。それは、決して「完全には治らない」という悲観的な意味ではありません。

自分の状態を知り、必要なときには立ち止まりながら、この先も歩んでいく。

私のとって「寛解」とは、そんな意味を持つ言葉なのです。

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