12 「死にたいけど生きたい」という矛盾

 『消えたいという念慮は永遠ではない』

 抑うつ状態でもっとも怖いのは、希死念慮が生じることがあることです。「死にたい」「消えたい」そんな思いに支配されてしまうのです。どう生きたらよいのか、自分では分からない。この苦しみが、この先も永遠に続くかのような気持ちになります。でも、ここで知っておいてほしいことがあります。

 「死にたい」と思っている自分の中に、「生きたい」という気持ちが同時に存在することがあります。だからこそ、私はこの状態を、「死にたいけど、生きたい」という矛盾と表現したいのです。希死念慮が強くなると、具体的な方法を調べたり、自殺を実行する場所について考えたり、実際に下見をしてしまうことさえあります。これは非常に危険な状態です。こうした具体的な計画や準備行動は、自殺リスクが高まっているサインとして、決して軽く扱ってはいけません。

 なお、「自殺企図」という言葉は、実際に自殺を試みる行為を指します。方法を調べる、計画する、準備するといった段階とは区別して考える必要があります。

 希死念慮は、とても苦しい状態です。そして、この状態になると、自分一人の力ではどうすることもできなくなることがあります。だから、ここだけは覚えておいてください。一人で何とかしようとしなくていい。主治医がいるのであれば、希死念慮があることを、そのまま主治医に伝えてください。「死にたいと思っている」「消えたいと思っている」それだけでもいいのです。言葉にすることが大切です。

 そして、私はもう一つ伝えたい。

 安心してください。今の苦しさが、永遠に続くとは限りません。永遠ではないのです。私自身もその状態を経験しました。その時は、この先もずっとこのままなのではないかと思いました。でも違いました。私はいま、生きています。私は生き延びた。そして、再び立ち上がった。だから、今この瞬間に「この苦しみは永遠に続く」と感じている人に伝えたい。その感覚だけを根拠に、これからの先の人生を決めないでください。今は人生を決めるときではありません。まず今日を越える。誰かに話す。主治医につながる。一人にならない。それでいいのです。そして、いつか振りかえったときに、「あのとき、生きていてよかった」そう思える日が来ることを、私自身の経験から伝えたいのです。

※厚生労働省の「こころの耳」には、匿名・無料で利用できる電話・SNS・メール相談があります。

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